バイオのお話

代謝を理解する【三大栄養素の代謝】

人は無意識のうちに体の中で、物凄い量の化学反応を起こしています。ここでは、食物として摂取した栄養素(糖質・脂質・タンパク質)が分解されてエネルギーになるまでを解説!また、同じエネルギーでも摂取した栄養素によって代謝経路(エネルギーを生み出す道順のようなもの)が異なるので、その違いについてもお伝えできればと思います。代謝はいろんな経路と工程があり、難しいですが理解すると楽しいですし、食事に対する意識も変わりますよ!

代謝とは

代謝とは、生体が外界から摂取した食物に含まれる化合物を、生きていくために必要なエネルギーや物質に変換する化学変化の集積です。代謝には、摂取した栄養素を分解する異化作用と、必要な物質に合成する同化作用があります。

異化作用では、分解され、生じた物質がさまざまな生化学的な反応を受けることで、生命活動に必要なエネルギーを産生します。また、余剰な栄養素を貯蔵し、不足時に取り出す仕組みや、不必要な物質を体外へ排出する機能も持ちます。

同化作用においては、異化作用で生じたエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)を使って、タンパク質や核酸、脂質などさまざまな分子が合成されます。

栄養素を分解して、ATPの合成を行うことが、代謝の中心的な役割となります。

 

代謝の全体像

栄養素の取り込みと分解

食物として摂取した栄養素(高分子)は、酵素などの働きにより代謝可能な低分子へと分解されます。

〈摂取した栄養素の分解」

  • 糖質   →単糖
  • 脂質   →グリセロール+脂肪酸
  • タンパク質→アミノ酸

各反応経路について

栄養素から得られた低分子は、それぞれ特有の反応経路で代謝されます。いずれも最終的にクエン酸回路という経路に入り、大きなエネルギーを産生します。

代謝を調節するホルモン

体内環境の一定性、すなわち恒常性(ホメオスタシス)を保つため、代謝経路はホルモンによって調節されています。生体は、必要に応じて、代謝の反応を加速したり、抑制したりして、代謝物の量を調節しています。

ホルモン

語源はギリシャの「刺激する」であり、生物の恒常性を維持するために必要な物質

糖質とは

糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたもので、ごはんやパン、麺類などはほとんどが糖質です。根菜類や果物にも多く含まれています。

糖質の含まれる代表的な食品

  • ご飯やパンなどの穀類
  • 芋類やにんじんなどの根菜
  • 果物
  • スイーツ

ヒトは、生命活動に必要なエネルギーの60%を糖質から得ていると言われています。体内に取り込まれた糖質は、分解されてグルコースをはじめとする単糖になり、それぞれの代謝経路によってエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)を生み出します。生体内にグルコースが多い状態の場合、余分なグルコースは肝臓や筋肉でグリコーゲンとして貯蔵され、飢餓状態になると分解されてグルコースを供給します。

COLUMN: 砂糖の350倍も甘いサッカリン

人口甘味料として1878年に誕生しましたが、発がん性があるとの報告で、一時期使用が禁止に。しかし、その報告が誤りだと判明し、現在では、その低カロリー性が注目されダイエット食品や糖尿病患者の甘味成分として活用されている。

糖質の代謝

解糖系

糖質の代謝は、生命エネルギーを得るための一般的な代謝経路で、糖質が摂取されるとATPを合成するための最初の代謝経路である解糖系が動き出し、ピルビン酸が生じます。

好気的(酸素がある状態)では、解糖系→クエン酸回路→酸化的リン酸化と進み、多量のATPを産生する。一方、嫌気的(酸素がない状態)では、解糖系のみの経路で反応が進むため、少量のATPしか産生されません。生物は酸素を利用してより大きなエネルギーを得られるように進化し、糖質は通常好気的に代謝されますが、酸素供給が不足した場合や、赤血球・ミトコンドリヤのない一部の細胞では嫌気的に代謝されます。

 

COLUMN: 発酵食品

嫌気的な代謝経路は、細菌を含む多くの生物種で普遍的に見られ、これを利用した乳酸発酵は古くから食品製造に利用されてきました。発酵と腐敗の違いというと、人間にとって都合の良いものが発酵で、悪いものが腐敗と分類され、起きていることは同じなのです。

〈発酵食品のいろいろ〉

  • ヨーグルト(乳酸菌、ビフィズス菌)
  • 塩麹(麹菌)
  • 納豆(納豆菌)
  • ぬか漬け、酵母パン(酵母菌)

クエン酸回路

解糖系で生成したピルビン酸を用いて、次は、ミトコンドリア内においてクエン酸回路という代謝経路を経ることになります。まず、解糖系で生成したピルビン酸がミトコンドリアに取り込まれ、アセチルCoAという物質に変換されます。アセチルCoAは、クエン酸回路をはじめとするさまざまな代謝経路の中心的な物質です。

このクエン酸回路は、脂質やアミノ酸の代謝経路でもアセチルCoAの生成を通して使われます。したがって、クエン酸回路はさまざまな化合物の代謝経路で結節点としての役割を果たします。

酸化的リン酸化

解糖系やクエン酸経路で生成したNADHおよびFADH2は、酸素によって酸化される際に化学エネルギーを放出する。そのエネルギーを利用してATPができる一連の流れを酸化的リン酸化と呼びます。

糖質が不足した時の代謝

グリコーゲンの代謝

ヒトをはじめとする高等生物では、余剰のグルコースはグリコーゲンとして蓄えられます。血液中の糖が低下するとグルカゴンやアドレナリンが分泌され、関連酵素が活性化することでグリコーゲンの分解が進み、グルコースを供給します。一方で、血糖値が上昇すると、グリコーゲンの分解が抑制される方向に反応が進み、それとともにグリコーゲンの合成が促進されます。

糖新生

脳や赤血球のエネルギーはほとんどグルコースで賄われますが、グリコーゲンによるグルコース貯蔵量は約1日分のエネルギーしかないといいます。そこで、血中グルコース濃度が低下しないように、糖質以外の材料からグルコースを生成する糖新生という経路が存在します。糖新生は、乳酸・アミノ酸・グリセロールなどを材料としてグルコースを生成します。いわば、解糖系と逆の反応です。

脂質とは

食物中の脂質の大部分はトリアシルグリセロール、いわゆる中性脂肪(脂肪酸とグリセリンが結合し、中性を示すためこう呼ばれている)であり、その割合は前摂取脂質の95%を占めます。脂質は、脂溶性(油に溶けやすい)のビタミンの吸収を助けたり、細胞膜の構成に欠かせない栄養素です。

脂質が含まれる代表的な食品

  • ごま油やバターなどの油脂類
  • チーズや生クリームなどの乳製品
  • ナッツ類
  • 脂身のある肉
  • スナック菓子

脂質の代謝

いざという時のエネルギー源=脂質

糖質とは別の経路で、脂質もまた、代謝されエネルギーを産生しています。糖質がすぐに使われるエネルギーなのに対し、脂質は、いざという時のエネルギー源として体内に貯蔵されます。体内のグリコーゲンが低下すると、蓄えられた中性脂肪からエネルギーを生み出そうとし、分解酵素であるリパーゼによりグリセロールと脂肪酸に分解されます。グリセロールは、解糖系やトリアシルグリセロールの合成に、脂肪酸はさらに代謝されて、エネルギー源として利用されます。

脂肪酸の代謝(β酸化)

脂肪酸の分解はβ参加と呼ばれ、ミトコンドリア内膜の内側(マトリックス)で行われます。β酸化で生じたアセチルCoAは、クエン酸回路へと入り、ATP合成に使われます。糖質やタンパク質から約4kcal/gのエネルギーができるのに対し、中性脂肪から得られるエネルギーは約9kcal/gと糖よりも大きなエネルギーを生み出すことが知られています。しかし、エネルギー源として使い勝手の良いグルコースが優先されるため、エネルギー密度の高い脂質であっても後回しにされてしまい、現代社会では肥満の原因にもなるのです。

ケトン体の生成

脂肪酸の分解(β酸化)が亢進すると生じたアセチルCoAの一部は別経路に入り、アセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトンのようなケトン体に作りかえられます。ケトン体は、水に溶けるので、血流に乗って筋肉や心臓が動くためのエネルギー源として使われます。クエン酸回路によるエネルギー生産が追いつかない場合や、グルコースが利用できない場合、ケトン体のみが唯一の代替エネルギーとなります。

タンパク質とは

最後に紹介するのがタンパク質です。タンパク質は、アミノ酸と呼ばれる分子がいくつも鎖状に繋がって出来ています。人は、食物から摂取したタンパク質を消化酵素でアミノ酸まで分解します。それによって、必要なエネルギーが生産されるとともに、自身の筋肉や臓器の合成素材となります。

タンパク質を多く含む食品

  • 鳥ささみなどの肉類
  • 魚介類
  • 卵類
  • 大豆製品
  • ヨーグルト等の乳製品

アミノ酸の代謝

アミノ酸代謝の全体像

タンパク質分解により生じたアミノ酸は、細胞内に一定量存在し、これをアミノ酸プールと呼びます。この中にあるアミノ酸は、自身のタンパク質の合成素材のみならず、他の物質への変換材料にもなります。アミノ酸代謝の全体像は、①脱アミノ反応→②①によって生じた有害なアンモニアを分解する反応→③残った炭素骨格の代謝の3段回からなります。

脱アミノ反応

アミノ酸からアミノ基が脱離することで、2-オキソ酸が生成する。脱離したアミノ基は、2ーオキソグルタル酸に転移し、アミノ酸の一種であるグルタミン酸を生成する。生成したグルタミン酸は、酸化的脱アミノ反応を受け、アンモニアを遊離し、2ーオキソグルタル酸に戻り再利用されます。

尿素回路

アミノ産の分解により生じたアンモニアは生体にとって有毒であるため、尿素経路(オルニチン経路)により、水に溶けやすく無毒な尿素へ変換されます。生成された尿素は、腎臓から排泄されます。

 

この回路反応には、アスパラギン酸の供給が必要であり、尿素を構成している2個の窒素(N)のうちの1つはアスパラギン産に由来しています。

アミノ酸と窒素源

生体を構成する主な元素は、炭素・水素・酸素・窒素の4種類ですが、糖や脂質はほとんどが窒素以外の元素で構成されています。そのため、一つの分子に必ず1個の窒素を持つアミノ酸は、生体における重要な窒素源となります。

炭素骨格の分解

アミノ産からアミノ基が脱離して生成した2ーオキソ酸は、それぞれの反応経路によりクエン酸回路で利用される物質に変換されます。その中で、ピルビン酸やオキサロ酢酸、スクシニルCoAに変化するものは、糖新生の経路に入り、グルコースを生成する。このようなアミノ酸を糖原性アミノ酸と呼び、ロイシン、リシン以外がこれに属する。また、アセチルCoAやアセト酢酸に変化するものは、肝臓でケトン体を生成するため、ケト原性アミノ酸と呼ばれます。

COLUMN: アミノ酸代謝異常と病気

アミノ酸の分解が正常に行われないことで、それぞれのアミノ酸が細胞内や血中で増加し、重篤な症状を引き起こす。メープルシロップ尿症という病気では、分岐鎖アミノ産であるバリンやロイシンの分解が正常に行われないことで起こります。患者の尿がメープルシロップの臭いがすることからこの病名が付けられた。

 

まとめ

私たちの体の中では、無意識のうちに数知れないほどの化学反応が起こり、生きるために必要なエネルギーを休むことなく生産し続けてくれています。本当にすごいことですよね!

現代社会において、中性脂肪のストック機能は、食べるの大好きな人にとって嫌になるかも知れませんが、それも大切な機能です。

人間はどうして、糖をメインにエネルギーを作るようになったんでしょうね笑

この記事が役に立つと嬉しいです。

参考文献:生体高分子の基礎 実教出版

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